集団食中毒を発生させた人気焼肉店「焼肉酒家えびす」のフーズ・フォーラス社。つい数日前このニュースが報道されるまでは、テレビ番組でも「安いのに、高級店並みのサービスを提供する優れた外食チェーン店」として紹介され社業は順調そのものに見えていた。
たまたま番組を観ていた私は、確かに関心する内容ではあったのだが、正直、余りの安さに「そのサービスでこの価格帯は、一体どういう仕入れをしているのだだろうか」と、外食産業の取材を15年も続けてきた筆者としては、にわかに疑念を感じざるを得なかった。
そして数日後、あの事件が明るみに。
テレビ番組で紹介された1週間か10日後くらいのことだっただろう。何と恐ろしいことか。まるでお天道様だけが見ていたかのごとく、唯一であり、そして決定的ともいえる最大のミス。「食材」、「衛生」という外食産業においてもっとも基本にして大切なことのずさんとは。見られていないと思ったところをあざ笑うかのごとく事件は表面化したようだ。
お亡くなりになられた方、まだ治療を受けていらっしゃる方には誠に気の毒な話だが、ある意味このからくりは消費者には知らされることはなかったが、起きるべくして起きたことと思えてならないのだ。それくらい「食材とは、価格とは正直なもの」ではないだろうか。
日本人の多くが食の安全意識高く、安全な水やミルクを求めて中国人が日本に日常品を求めてやってくる程のお国柄でがあるが、それでも昨今では外国産(主に中国、アジア)の加工食品に加え、外食産業の入荷元が気になるところである。
この問題の核心は、ある意味、日本の長期に渡るデフレ経済の産物によって引き起こされたと考えるべきだろう。ここ数年リーマンショック以降日本のデフレは加速化し、多くの飲食店は苦境を強いられていた。こうした社会状況にあって、外食大手チェーン店ででは、「日々の食材をいかにして安く、効率よく仕入れるか」、とういうことに経営の多くを費やし、日々、神経をすり減らせてきたことだろう。同外食チェーン店が個人店の約3分の1の価格帯であることからすれば、火を見るよりも明らかだ。
筆者自身も、外食チェーン店などに食事にいくに際し食の危険性は感じさせられていた。懸念ごとでもあった。しかし私自身の主たる取材先で、この時代にあっても健全経営を遂げている不動の人気メニューを持つ個人店においては、こうした課題に対しては、真逆の態度を取っているようにも見受けられるのだ。
というのは、つい先日も横浜にあるとある老舗手打ち蕎麦やに取材で訪れたのだが、そちらの店主と雑談していると、「私は人にものをまけてくれと言うのが一番嫌いなんです。」というのだ。
「この商売をやる前は牛乳屋で、昔はまけてくれとよく言われたものです。一本10円20円の頃、それを数円でもまけたらどうなると思いますか?だから私は、技術を身につけて他と差別化図って、まけてくれって言われなくても済むものを始めたんです。(当時手打ち蕎麦屋は横浜ではなかった)自分が蕎麦屋を開いてから取引業者に一回も負けてくれ、とは言ったことないです。だからこういう厳しいときでも融通してくれるのでしょうね。お互いに気持ちよく仕事をやってこられたからだと思いますよ。」というのだ。
既にこの店には二代目が育ち、世代交代の感もあるが、40年来変わらぬ大きな車海老目当てに天蕎麦を所望する客足は衰えを見せていない。その秘訣とはこうした取引業者との信頼関係構築にあったようだ。今では、人気の秘密食材の車海老も大きなものは中国産でしか手に入らず、中国本土でも人気で日本では品薄になっているようだが、それでもこの店には優先的に卸問屋が回してくれるという。それが数十年経って、苦しい時にも相手のことを思って一度も値下げを要求しなかった大将への対価といえるものなのだろう。
今回の食中毒事件は食肉の危険性のみならず、「人間の信頼関係、商売の清廉潔白な取引というものは、安さの押し売りでは買えない」ということを教えてくれてもいるのだ。
消費者である我々も安全、安心、健康を買いたければやはりある程度の代償を支払う必要がある。それは改めて認識せざるより他はないのである。
だからといって、安さゆえの手抜き工事や、それに見合った食材を消費者の生命を危険にさらしてまでも提供してよいという理屈には決してなり得ない。
若い野心家の起業家にとって大変、手痛い教訓ではあったと思うが、すべての人、経営者がこの安さの魔力、罠にかかる危険性があることだけは肝に銘じておくべきだろう。
『日本経済はどうデフレを克服できるか。』
食中毒事件の鍵ともいえる一因がそこに内在しているのではないだろうか。各業界や企業におけるデフレ克服の取り組みは、大いなる創意工夫と智慧が必要ではあると思うが、どうかこの国が貧乏神に取り憑かれ、そのまま奈落の底に沈み込むようなことだけはあってはならないと思う。
企業の上流は、ぜひ勇気を持ってデフレ解消にも取り組んで頂きたいと思う。日本人の収入低下は大きな課題でもある。消費のモチベーションを向上させるためにもぜひとも企業には、働きに見合った対価を惜しまず支払うことも検討していただきたい。それは(自社)、己のみならず、他の人々のためであり、国全体のためであり、引いては必ずやブーメランのごとく自社に跳ね返ってくることでもある。
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